「靴のサイズ何センチ?」「えっ、23cmですけど…」「じゃあぴったりだな!」強くて優しい口調になって「確か妹のテニスシューズが車にあったと思う」と告げると「このベンチで少しだけ待っててね」と告げると駐
ふと思いついて「その靴じゃあもう大変だよね」「そうですね、どうしよう」また泣きそうな表情を見せる彼女に対して「任せてよ」と胸を張って答えるヒロシ、妹の靴が車に常備していた筈だ。
「ありがとうございます。」泣き顔寸前の表情が少し明るくなった、手を貸してあげながら、びっこ状態の彼女を誘導して取りあえず近くのベンチに腰掛けさせた。何度も済まなさそうにお辞儀をする彼女に「気にしないで
「いいからいいかからと」手を振って制するヒロシ
は彼女が片足立ちしている事に気がついた。「どうしたの」「ちょっとヒールが片方取れたみたいで」と泣きそうな表情の彼女…「じゃあ捕まって!」と手を差し伸
「ご、ごめんなさい、本当に済みません。」顔を赤らめて、彼女は何度も謝りながら何とか一人で立って、ヒロシから手を放した。落ちたフライドチキンを見て「済みませんでした、弁償しますから」という彼女に対して、
ごめんなさい」と詫びながら見上げた彼女のすまなさそうな表情。「あっ」と声を上げたのはヒロシの方だった、パドックでノースシャトルに「カワイイ――♪」と黄色い声援を贈っていた、あの女の子がそこにはいた。
ヒロシのチキンははずみでマスタードごと地面に落ちる、黄色いマスタードが地面に飛び散る、同時に「キャッ」と言う女性の短い叫び声!そしてすぐにヒロシにしがみ付きながら、何とか倒れずにいる少女と目が合った。
4~5人の列に並んで、順番が来ると塩を少々とマスタードを多めに付ける事にした。
それは尖ったチューブの先からマスタードをチキンにかけている時に起こった
ドスンと云う衝撃と共に誰かが真横からぶつ
フライドチキンといっても、パン粉の衣がついて実質は殆どチキンカツなのだが、これにマスタードと塩をかけて食べると、なかなかに旨い!本来はビール片手に楽しみたいのだが、今日は車なので少しだけ残念である。
第2話 折れたヒール
少しお腹が空いたので、いつもの定番のフライドチキンを食べる事にしたヒロシは、パドック近くに有るフライドチキンのブースに並ぶ事にした。
例のゼッケン5番、冬毛伸び放題のノースシャトルだった。
【いやいやいや、違うでしょ…貴女の方がずっとカワイイよ…】心の中で呟いたヒロシだった。 第2話へ続く
ヒロシは、思わず声の方向を振り向くと間に3人程置いた場所でパドックを見つめている若い女の子がいた。タレントの内田有紀に似た感じの女の子が熱心に、輝くような瞳の先に見つめていたのは、
その時だった「可愛いーー♪」若い女性の弾んだ声がした、土曜日の東京競馬場のパドックにはおおよそ似つかわしくない女の子の嬌声。
周回する馬の中でひと際目立つゼッケン4番のミスターアダムスの後ろを行く5番の馬が目に止まった、冬毛が伸び放題でみすぼらしい馬体の8歳のせん馬…「こんな馬来る訳ねーよな…」ヒロシは声に出すともなく呟いた。
ミスターアダムスから岡部のアマミオウジ、人気薄だけど鞍上がヒロシの好きな騎手である郷原のトーワタケシバ辺りへの連勝を買うつもりになっていた。
パドックでも堂々と落ちいて立派に見える、まだ社会人1年目の23才、馬を見る目など殆ど無いに等しい若造の目から見ても、「ここは確勝じゃないかな?」かな?と思わせていた。
ヒロシは今回は勿論だが、ここを勝って春の天皇賞に出走がかなったら、連勝のヒモとして買おうと心に決めているステイヤーである。
人気は前走で中山のステーイヤーズステークスで皐月賞馬ドクタースパートに首差2着と迫ったミスターアダムス。 長距離レースで頭角を現しつつあり、今回このメンバーならば抜けた実績馬、ヒロシは今回は勿論だが、
早々と帰宅して家のテレビでレース観戦する算段を決め込んでいるつもりのヒロシ。
周回する僅か7頭の馬たちを見て最終確認のつもりのパドック前である。
今回は頭数が揃わずに、僅かに7頭立てという小頭数でのレースとなった。
払い戻した約2万円の軍資金のうち、1万円分だけこの重賞レースの馬券を購入したら、早々と帰宅して家のテレビでレース観戦する算段を