はりまや橋からタクシーを拾い、潮江橋を渡って長いトンネルを抜ける。夕刻を過ぎれば、墨汁が水にとけるように、ゆっくりと夜の暗さが隅々まで浸みていく。桂浜方面に浮かぶ月を追えば、夜さ恋の文字が浮かぶ高知競馬の入場口だ。改札機に小銭を通し歩を進めれば、外ラチの低いシンプルなダートコースが眼前に広がる。ハルウララが走った際にTV画面で見た光景と同じだったか記憶を遡るが、思い出すのはその当時、画面に映っていたミチオの姿だけだ。
近年、地方競馬はネット販売を皮切りに中央との連携を強化することで拡大し、収益性を高めてきた。もはや互いに受け入れるということが、避けられないテーマとなったということだろう。その関係性の余白に屹立するように、部分的に改装されたスタンドがあり、箱庭のようなパドックには舶来品のような電光掲示板が備えつけられている。
売上の8割をネット販売に依存する影響なのかは定かではないが、カーテンの閉じた窓口が多く並び、発売機の設置が追いついていないように感じられる。投票カードの仕様の違いから手間取っていると、隣に立った男に3連単用のカードを手渡され購入を済ました。東京からかの問いに小さく会釈を返す。焦げ茶色のブルゾンに、紺のスラックス、目尻の皺と薄くなった頭髪は年齢を感じさせるが、日焼けした肌と大きな体躯が時間の流れを堰き止めているような若さを想わせた。お礼がわりに紙コップの熱燗を渡すと、鯨を模倣したゴール板の前に向かう。小さな子供を連れた若い夫婦や、退屈そうな顔をした女を連れたカップルも疎らに外ラチ沿いに並び始める。
兄さん、はりまや橋の話は知っているか。俺は鏡川を渡って、こっちのお馬に会いに来てしまった。このレースを外せば今日も坊主だと照れ臭そうに笑う。兄さん、ミチオもそう呼んだ。兄さん、俯瞰するな、力仕事でこなせと。
馬群が最終コーナーを過ぎると、地響きとともに摩擦で発生するような熱を帯びた歓声と叫び声がスタンドからも聞こえてくる。隣で熱燗を流し込む男の躯が、港湾に置かれた巨大なクレーンを想わせ、何か重たいものが動く場所にいるような錯覚に襲われる。震動する冷えた鉄柵に、もう半身、重みをあずけた。
色鮮やかな勝負服がこのままの配色で縦に繋がれば、うなじのような余白をのぞかせる幾重の夜に、かんざしを買うための熱を受け入れることになるだろう。
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